不登校の子どもたちの肯定感を理解するには?

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小学校の高学年ともなってくると、脳の発達により自分を客観的に見ることができるようになります。そのため、自分と他人を比較して劣等感を感じやすくなります。発達の過程で誰にでも起こりうる問題ですが、自己肯定感を下げる要因にもなるため注意が必要です。

自己肯定感が下がると、「自分は何をやっても駄目だ」「やっぱりできなかった」など、挑戦する意欲の低下につながります。また、自分の短所ばかりに目が向き、落ち込んだり不安を感じたりすることもあるでしょう。

「マズローの欲求5段階説」というフレームワーク

マズローの欲求5段階説は、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、社会生活において理想の自己イメージと現実が一致している状態(自己実現)に至るまでの人間の欲求を5段階の階層で理論化したものです。

マズローは、1908年4月1日、アメリカ合衆国、ニューヨーク州に生まれた心理学者で、人間心理学の生みの親と言われている人物です。

マズローの欲求5段階説は、低次の欲求から高次の欲求に向かって以下の5つの階層に分けられます。

生理的欲求

「生きていくために必要な本能的な欲求」(食事・睡眠・排泄など)

「家にいてご飯を食べさせてるんだからその欲求は満たしているでしょ」と思うかもしれませんが、例えば…

  • 時々ご飯が食べられないときがあったり、お腹いっぱいにならない
  • 給食で栄養摂取の主な食事になっている
  • レトルト食品やインスタント食品ばかり
  • ひとり親世帯で、親が返ってくる遅い時間まで一人で過ごす
  • 両親が夫婦喧嘩をしている時がある

などの状況では、生理的欲求を十分に満たせていないかもしれません。まずは「何も心配ないよ」ということを、子どもが十分に安心するまで伝え続ける必要があるかもしれません。

安全の欲求

「心身の安全の確保、安定した生活を送りたいという欲求」(心身の安全、経済的安定、良い健康状態など)

安全性の欲求は、特に発達段階にある小さな子どもに顕著にみられます。母子分離不安という状態が現れるのもこのころです。子どもが「学校に行きたくない」と言っている場合は、子どもにとって学校は安全の欲求を満たしていない可能性が考えられます。この場合は、「学校に行きなさい!」というばかりではなく、子どもが安心できる状態を作ることを優先的に考えた方がいいでしょう。

不登校に当てはめて考えてみると、学校が「安全の欲求」に対応できる環境になっていないということです。

学校に行くと何らかの危険があると思うからこそ、不登校という行動を持って身の安全を確保しようとしているのです。この欲求が満たせていない学校なのに、親の圧力で無理やり行かせようとすると、今度は家の中も危険な場所という認識になってしまうでしょう。

そうなると、今までは不登校でも親に顔を見せたり会話をしたりしていたのが、部屋に引きこもって出てこなくなったり、暴言・暴行などで親を拒絶したり、ゲームやバーチャルの世界などに現実逃避してしまうようになります。ここの段階に課題があるようであれば、まずは家の中は絶対安全・安心できる場所であるとわかってもらう必要があると思います。

社会的欲求(所属と愛の欲求)

「家族や組織など、何らかの社会集団に所属して安心感を得たいという欲求」

生理的欲求と安全欲求が十分に満たされると、この欲求が現れます。これは、学校や会社など何らかのチーム、組織に所属したい、受け入れられたいという欲求です。自分がその集団で役に立っていると実感することで満たされ、それにより、自分が社会に必要とされている、果たせる社会的役割があるんだという感覚をもたらします。

学校に行かない選択をした子どもが、他者と長期間接点を持っていないのであれば、社会的欲求が満たされていないかもしれません。

この場合、フリースクールや放課後等デイサービスなどをうまく活用し信頼できる他者とつながったり、同じ趣味を持つ心許せる仲間を持つことでも社会的欲求を満たしてくれます。「どこにも所属していない」と感じる寂しさは、孤独感や社会的不安を感じやすくなり、鬱に陥るケースもあるようです。

また、例え通学していたとしても、自分が受け入れられていない、必要とされていないと感じれば社会的欲求が満たされていないといえます。

「自宅と学校以外のなんとなく居心地のよい場所」としてサードプレイス(第三の場所)を持つといいなどと言われますが、子供たちにとって一つでもそんな場所があるといいかもしれません。もちろん、ご家庭がその役割を果たせれば、子どもにとっては大変心強いことですし、当事業所においても第三の居場所づくりに注力していたりもします。

承認の欲求

「他者から尊敬されたい、認められたいという欲求」

最近どんなメディアでも承認欲求と聞きますね。所属する集団の中で「高く評価された!」「自分の能力を認められたい」という欲求が出てくるのがこの段階です。

部活でレギュラーになりたい!リレーの選手に選ばれたい!などと望むことはほかの段階をクリアし、承認の欲求があるからこそです。そんな承認の欲求には以下の二つのレベルがあります。

低いレベルの尊重欲求

「誰かに褒められたい」という気持ちです。

  • テストでいい点が取りたい!
  • 部活でレギュラーになりたい!
  • SNSの投稿に「いいね」が欲しい

と思うのも「低いレベルの承認欲求」のひとつだといえます。
低いレベルの尊重欲求は、他者からの尊敬、地位への渇望、名声、利権、注目などを得ることによって満たすことができます。

高いレベルの尊重欲求

「自分が自分を承認できているか」が大切
「高いレベルの承認欲求」では、他人にどう見られるかではなく、自分に対する自分自身の評価が重視されます。

  • SNSの運用(フォロワーやインプレッションを増やす)が自らが設定した目標通り、上手く推移している
  • 狙ってUPしたショート動画が計画通りちゃんとバズっている
  • 4月に目標設計した学業へ課題が、期待した点数と共にしっかり進捗できているのが確認できる

など、技術や能力の習得、自己尊重感、自己信頼感、自立性などを得ることで満たされていきます。また、マズローは、低いレベルの尊重欲求にとどまり続けることは危険だとしています。

自己実現の欲求

「自分らしく生きていきたいという欲求」

社会生活において、理想の自己イメージと現実を一致させたいと願うのが自己実現の欲求です。

私たちは「こうだったらいいな」という願望を持っています。私たちの欲求が完全に満たされるには、社会的に成功するだけでなく、「理想的自己イメージ」との同一化を目指す自己実現を果たす必要があるのです。

自己実現の欲求は、見返りは求めず「理想とする自分になりたい」と願う欲求でもあります。

5段階の欲求が起こる原則について

これらの欲求が起こるタイミングですが、より下の階層の欲求が十分に満たされることで、自然と次の欲求が発生するようになっています。

簡単に言えば、もし毎日が命の危険にさらされている環境では、第四段階の承認欲求(=他者から認められたい欲求)や第五段階の自己実現の欲求(=自分の能力をもっと発揮して成功したい欲求)などは発生しないということです。

子どもたちの自己肯定感を上手に紐解くには、第一段階の生理的欲求(=生命を維持したい、本能的な欲求)が満たされて、第二段階の安全の欲求(命の危険から身を守りたい欲求)が満たされ安全が確保されたのが十分にわかっていて、第三段階→第四段階→第五段階のどこに課題があるか分析することができますね。

欲求が起こる原則は、「かならず下段から、そしてそれが十分に満たされた状態になって次の段」となっていきます。欲求という「心の動き」がこのような順序になっている以上、不登校児に例えると「何はともあれ学校へ行かせる」と考えてしまうのは避ける方が望ましいことがご理解できると思います。

放課後等デイサービスと不登校

当事業所奏は放課後等デイサービスとして不登校児童にとって「休息ができ、安心・安全でその子らしく過ごせる場」としての役割があること考えております。

通学が何らかの事情によって困難となってしまった子たちのサードプレイス(第三の場所)となればと思います。奏がハブ役となり、担任の先生や校長と連携をしたり、連携会議によって日々の共有を行うことも可能です。まずはお気軽にご相談ください。